羊蹄山の麓、異国の目で捉えた日本

日本の美はときに感度のいい異国人によって創造的に見立てられるが、この宿もその一つであろう。ホテル坐忘林は羊蹄山の麓、ニセコに隣接する倶知安の丘の上に建っている。近隣は世界屈指の雪質が目当てのスキー客で賑わうが、ここはむしろ喧騒を離れ、自然の静謐に向き合う場としてしつらえられている。オーナーは船舶業を営む英国人で、日本の美意識でホテルを運営するのが夢だったという。

ニセコに住み着き「翔矢(しょうや)」と名乗る美の差配に長けた豪州人、ピーター・グリッグ・トニーとこの地で出会ったオーナーは、氏にホテルづくりの全権を任せた。結果として坐忘林という15室の宿が出来上がった。和をミニマルな空間として展開し、アジアのプリミティブアートや盆栽、水石がそこに配される。ミニマルな和様にアジアのエスニックを合わせる手法としては常套的だが、音を外していない点が心地いい。

雪原に生える白樺に囲まれ、風の音以外は無音である。確かにこの宿の名称の通り、座禅による忘我の境地に通じているかもしれない。細長い空間の贅沢な交差からなるエントランスは、暖炉のあるロビーからラウンジへ、そして見晴らしのいいバーへと続く。立礼卓には茶釜もかかっていて、頼めば茶も点ててくれる。個室はいずれも広々としていて、ガラスを多用している窓や開口から素晴らしい白樺林が見える。

各部屋には屋内と露天の風呂がひとつずつあり、露天にはバリ島あたりから運んだと覚しき、天然石をくりぬいた風呂桶が鎮座している。天井から垂直に下降するパイプの先からは常に掛け流しの湯が滴り、溢れた湯がゆっくりと天然石の表面を滑り落ちて岩肌を濡らし続けている。湯に入り遠くを眺めると、風景そのものに浴している気分になる。天候によって千変万化する羊蹄山の姿も神々しい。

料理は空間の完成度と呼応していて、和でありモダンである。器の用い方も、純和風というわけではなく、北海道の自由さを感じる遊びがあり楽しめる。刺身の出し方も、北の海産物を多彩に用いていて、輻輳的な奥行きがある。肉もジビエなど、地元の食材をよく研究していて連泊に飽きることはなかった。雪の白樺林をくぐって室内に届く清澄な光の中で楽しむ朝食も、心地よいひと時である。

2019.7.18

アクセス

〒044-0084 北海道虻田郡倶知安町花園76-4