絶景に浴する絶感の宿

霧島連峰を望む三万坪におよぶ涼やかな山をまるごと敷地とし、わずか5棟の木造のヴィラが点在している。宿泊できるのはわずか3棟。他の2棟はランチを供し、自然の中でゆったりと一日を過ごすサービスに使われている。それぞれの場所には天空に開かれたウッドテラスが広がっており、山中に安息の空間を生み出している。裸足で木の床を歩き回る解放感はこの上ない。

遠景に向かって大胆に張り出したテラスは山々を眺望する楽園。その一部に風呂が切ってある。床すれすれまで湯が張られ、空が映り込んでいる。空の中に滑り込むように体を沈めると全身で景観の全てに浴するような快楽を覚える。隣のヴィラは遥かに離れた場所にあるので素っ裸で逆立ちをしても誰の目にも触れない。「ドレスコードは裸」という惹句も決して大げさではない。

テラスの所々に穴があいていて、そこから立派な樹々が空に伸びている。周囲には芝生や菜園があり、風に揺れる樹々にハンモックが吊られている。パラソルの形のよい影が落ちる場所には木製の寝椅子が並んで配され、極上のバスローブを羽織って身を横たえると、冷えたシャンパンの入ったワインクーラーに手が触れる。耳に入る音は山を渡る風の音、そしてミツバチの羽音である。

この宿で一番大事にしているものはなにかと田島氏に尋ねると「香りです」と答えが返ってきた。付与する香りではない。畑の野菜の香りだという。敷地内には段々畑や菜園があり、宿で使う野菜はここで調達する。大根が美味しい時には地中から大根が香り、人参がいい時には人参の香りがする。それを、大きくなる前の小さな段階で収穫し、皿に並べる。

「TENKU」は主人である田島健夫が独力で切り開いた。鬱蒼と繁る竹薮だらけの山を買い取り、日本一の宿を作るべく竹を一本ずつ刈り取り、根を引き抜いて山道をしつらえ、15年以上の歳月をかけて作り上げた。贅沢な空間といえばそれまでだが、ここでどんな時間を過ごせるだろうか。そんな挑発をはらんだ問いかけが、この施設の命かもしれない。

2019.7.18

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〒899-6507 鹿児島県霧島市牧園町宿窪田市来迫3389