豪華ではなく洗練へ

とても洗練された列車である。豪華さを競う列車のデザインが隆盛している昨今であるが、池袋と秩父を結ぶ特急「Laview」は、外装も内装も、透徹した視点からデザインされた、無駄なところのない気持のいい列車で、こういうものが走り始めているところを見ると、日本の未来も案外悪くないかもしれない。特徴はいくつもあるが、8両の車両が、まるでひとつの生き物のように、すっきりとまとまっている点が素晴らしい。

最初に目を引くのは青虫の頭のような丸みを持つ先頭車両であるが、これは全体のスタイリングが、自然に先頭車両に収斂したものだろう。この列車の窓は通常の列車よりずっと大きいが、その収まりがきれいである。外からも内からも縁がない。つまり窓のエッジに凸凹がなく、さらにはガラスにグラデーションのパターンが施され、ガラスとボディが連続しているように見える。そんな一体感が自然に先頭のかたちに収束していく。

外装の徹底したフラット感をさらに助長しているのが塗装である。アルミ合金に塗装を重ねた外板は、まるで無垢のアルミニウムのように白く明るいシルバーである。しかも、鏡面状ではなく、周囲の鉄柱や電線の煩雑な映り込みが、ぼんやりとボディに溶けるように吸収される。曲線的な丸みと、フラットで起伏のない外観、そしてこの質感である。豪華さではなく特別なものを目指したのだと、西武鉄道、車両部の山下和彦氏は言う。

設計者の妹島和世氏は、世界の建築界から、空間の大胆かつやわらかな解釈で注目を集め続けてきた建築家である。この仕事によって、列車は走る建築であることに、そしてその仕事が自然に建築家の領域であることに妙に納得させられた。窓のフラットな捉え方や収め方、そしてそれを細部まで徹底することで、既存のものとは全く異なる存在の軽みを発する点など、妹島和世の建築的視点が、自然に列車のかたちに重なっている。

座席は一つ一つ包み込まれるようなホールド感がある。窓が通常よりもずっと下まであり、左右の視界も開けているので、車内に入ってくる風景の量が違う。ここまで開放的だと、駅に着いた時にホームからの視線が気にならないかと思うのだが、設計の視点は逆で、むしろくつろいで移動を楽しむ旅客の姿を、明るく外に向かって見せていくことで、この車両に乗りたいという憧れを助長するのだと。これにはなるほどと感心した。

走る姿を撮影しようと雑草の生い茂る川に架かった鉄橋に向けて三脚を構えた。鉄道写真ファンになったような気分である。西武秩父行きの列車を待っていたのだが、偶然、池袋行きの列車と鉄橋の上ですれ違った。7編成しかないLaviewが鉄橋の上ですれ違う風景というのは、いかに正確な運行を誇る日本の鉄道といえども狙って撮れるものではない。旺盛に草木の繁茂する湿潤な風土を先端的な列車が行き交う光景もまた日本である。

ふと、一両編成で走る列車の光景を思った。その情景は確かに寂しげであるのだが、せっかく一両で走る列車なら、その一両にデザインの粋を尽くしてみてはどうか。車両の設計は簡単ではないし、製造も安価ではないが、素朴で簡素なデザインでいい。同じ事情を抱える鉄道会社が協力し合えば秀逸なアイデアを呼び込んで、新しい日本の景色が生み出せるはずだ。やがて各地に、世界中から旅行者が訪れるようになるのだから。

2022.10.3

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