原始の風情で未来を招来する

独創的な建築に惹かれて訪ねたが、料理の質や雰囲気が建築と合致していて驚いた。オーナーで料理も担う平田基憲は、東京芸大の学生だった石上純也と出会い、意気投合し、互いの部屋に寝泊まりしながら渋谷を遊び歩いたそうだ。今も「ジュンヤ」「ノリ」と呼び合う仲とか。確かに価値観を一にする阿吽の呼吸のようなものを感じる。平田氏は石上氏しか建築家を知らないというが、施主と建築家の深い信頼ゆえの出来栄えだろう。

地面に精密に穴を掘り、そこにコンクリートを流し込んで固め、その後に土を除いて、コンクリートの塊を掘り出す。自然の洞穴のような有機的な空間がそこに姿を現すという。なるほどである。しかしながら、完成後の空間の用途を考え抜いて設計を行った上で、その通りに精密に地面に穴を掘る必要があり、またコンクリートの内部には格子状の鉄骨が配されるわけであるから、直線的・幾何学的な建築よりも数倍手間がかかる。

また、基礎を固めてから上方へと構築される建築とは異なり、コンクリートの塊が掘り起こされたあと、地下に配管を行い、その上にフラットな床を拵えなくてはならない。さらには、開口部に精密にガラスを切って嵌め込む必要がある。厳密に測定された洞穴のような開口に、驚くほど正確にガラスがはまりこんでいる。約40枚のガラスのうち、数枚は日本で製造できず、中国から運び、地面を掘り下げて大開口に嵌め込んだとか。

基本的に建築はグランドレベルより低いところにあるため、ガラスの外側は、庭的な路地を経た土壁となる。ガラスを介した外部空間には、葉の形の美しい植物が繁茂しており、一部は微かな隙間から室内に侵入している。したがって、空調が完備されている居室にも植物の気配が感じられる。手間暇のかけ方が尋常でないのはすぐにわかるが、決して妥協せず、構想を実現しようとする依頼主と建築家の意志の強さは格別であろう。

きちんとした料理店で修業をしたことはないという平田氏だが、繰り出すフレンチ風料理は緻密かつ実に軽やかである。地元のトラフグの刺身を細身の柑橘やキャビアと和えた前菜は洞窟の野性を心地よく裏切り、パプアニューギニアから取り寄せたバニラを混ぜたというバターは自家製パンの上で香りたつ。麻炭をまとった甘鯛の白身はほのかな苦味で引き立ち、肉に添えられたクレソンの香りも鮮烈かつ繊細。実に静かな料理だ。

地産は意識していないそうだが、地のものは大切にし、遠くの食材は知人たちの輪によって調達するという。器は強い主張はしていないが、静かな極まりを感じさせて心地いい。カトラリーも、薄い作りながら絶妙な揺らぎのあるフォルムが清楚で美しく、このレストランの感受性をしっかり映している。料理も器も、そしてペアリングごとに変わるワイングラスも、全てキャンドルの明かりのほの暗い空間の下で息づいている。

普通の住宅街に突如現れる異形の建築であり、非日常のサービスだが、地域の魅力を表現する方法として手応えを感じている。宿泊客は一日一組のみという営業は決して簡単ではないが、バブル世代後の目利きたちの目には留まり始めている。日本の地域に根ざすラグジュアリーを見通す平田氏の意気に感応し、二人の子息も、料理人やソムリエの技を身につけ家業を継ぐ意欲を見せているとか。原始の風情に未来が息づく施設である。

2026.1.5

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