環境の未来への光明

四国の山間にある上勝町は、徳島県最少の人口1500人、高齢者率約53%で過疎化の課題を抱える地域である。しかしここは「廃棄物ゼロ」の目標のもと、リデュース/リユース/リサイクルを町ぐるみで推進し、地域の活性化に繋げつつある。町には町民が分別を行う「ゴミステーション」が設けられ、構想が実践されている。ゼロには至っていないが、現在、燃やすものと埋め立てるものは2割、8割の不要物は資源へと循環している。

1997年までは「野焼き」の現場であり、林業の不要木材を燃やす場所でゴミを一緒に燃やす習慣が生まれていた。この実態が問題となり2基の小型焼却炉が設けられたが、ダイオキシンの発生を防げず、「ゴミ処理という非生産的な行為に、これ以上大事な税金は使わない」と、当時の山田良男町長は小型焼却炉の閉鎖を決めた。始まりは9分別、2001年に35分別、2003年に町議会で「ゼロ・ウェイスト宣言」が決議され、現在は45分別が行われている。

2005年、町が担ってきた廃棄物の中間処理業務を引き受けるNPO「ゼロ・ウェイストアカデミー(ZWA)」が設立され、環境問題に興味と意欲を持つ3人の歴代事務局長と一人の理事長のもと、住民の声を聞き、説明に奔走し、小学校の出前授業で子供たちとアイデアを交感しつつ事業を脈動させてきた。分別を推進する上になぜ「ゼロ・ウェイスト」をまで引き受けなければならないのか、町民の合意を得ることは並大抵のことではなかったはずだ。

2020年から分別施設はより町外へ開いた公共複合施設として更新され、BIG EYE COMPANYの運営へと移行した。分別処理のみならず、交流ホール、くるくるショップ、ラボラトリーなどが設けられているほか、宿泊体験施設「HOTEL WHY(ワイ)」が併設されている。2012年頃、町は再生エネルギー(風・水力)による売電に可能性を見ていたが、やがて町の取り組み「ゼロ・ウェイスト」そのものを価値化する方針に変わった。

分別施設や分別体験のできるホテル、そして2016年に始まったクラフトビール製造販売/バーベキュー・カフェ/食品雑貨店を凝縮した『RISE & WIN』(上勝に由来)は、発信力のある活動で、町の事業を象徴する機能を担っている。設計は建築家の中村拓志、RISE & WINのVIデザインはデザイナーの鈴木直之、事業スキームアドバイザーにトーンアンドマター、これらの座組みをトランジットジェネラルオフィスが担当している。

取材をして印象的だったのは町の取り組みを基軸として、実に多様な会社や人々が、このプロジェクトを支えていることである。NPO「ZWA」の頑張りも特筆されるべきだが、2011年頃、当時の笠松町長が、町の過疎化対策への協働を呼びかけた企業の中で、積極的だったSPECという徳島市の衛生検査会社が、クラフトビールやゼロ・ウェイストセンターの提案を行い、それが実現したことも今日の事業の充実に貢献している。

RISE & WINのスタッフ、池添翔太、亜希夫妻は、生き生きと仕事に取り組んでいる。ビールの販売は順調で、小さな醸造機では追い付かず、すぐに別工場の増設を行った。ウイスキーやワインなどの酒樽を用いた熟成にも取り組む施設はピカピカに掃除されている。ビールや食品雑貨の量り売りも地道に裾野を広げてきた。醸造カスを微生物で液肥に変え、麦を栽培する事業にも着手した。これからの若者の憧れる暮らしや仕事がここにあるように感じた。

RISE & WINやHOTEL WHYの壁という壁には、町民から集めた窓枠やドアがコラージュされている。まさに資源の再生を象徴的に表現しつつ、町民の参加意識を鼓舞するアイデアだと感心した。ラボラトリーの壁には、家々から集められたタンスの引き出しも嵌め込まれている。暮らしの名残が見事に活用されることで施設が自分ごとになっていく。こういう所にクリエイティブの未来があるように、僕には思われた。

2022.2.7

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