静けさが澄んだ水に映る空間

紀伊半島の東端、太平洋をリアス式の地形で抱え込む英虞湾。この変化に富んだ海を見晴らす高台にあるリゾート施設である。2016年3月の開館。構想から7年の歳月をかけて完成させた日本で2番目にできたアマンである。設計はケリー・ヒル。風土に溶け込むミニマルな建築と、風景を映して魅惑的な景観を出現させるインフィニティ・エッジ・プールで知られるリゾート建築白眉の最晩年の仕事である。

リゾートというと、目を引くだけの建築や、感覚を弛緩させる甘い空間を想像しがちであるが、AMANEMUは土地の「静けさ」を活用しきっている点が傑出している。外に開いた空間が、ともあれ静かであり穏やかである。土地ごとの気候や風土を、最良の形で生かす仕組みを作り続けてきた建築家の熟練の仕事を感じる。ヴィラの、床まである大開口の引き戸を全て開け放つと、英虞湾の光景が見事にトリミングされて現れる。

伊勢神宮の屋根勾配やバランスを取り込んだという建物の屋根は、日本家屋の屋根より大ぶりである。おのずと一枚の瓦の屋根全体に対する比率は小さくなる。そのせいか屋根瓦のテクスチャーが整然と見えすぎる。最初は違和感を覚える甍のリズムだが、時を過ごすうちにいつしか心地よくなっている。床も壁も天井も、材木の目地が揃っている。神道的なミニマリズムが、ここでは異国の目で大胆かつ端正に展開されている。

プールも美しいが、天然温泉を使用したサーマル・スプリングと呼ばれる広々とした温浴施設も爽快である。二段階の温度が設定されていて、温度が高い方も比較的ぬるい。つまりゆっくり湯に浸れる。ルーバーでできた小ぶりの東屋の中に、バスタオルで包まれたマットレスが置かれていて、温まった身体をバスローブで包み、仰向けに横になると次第に意識が薄れていく。岩風呂や檜風呂とは趣向の違う開放的な愉楽である。

海産物の豊かさは立地的に疑う余地もないが、調理とサーブの水準も確かである。伊勢海老は名前の由来からしてまさにこの地で味わうべきだろう。刺身は美味だが、初日はビスクを頼んでみた。甲殻類のスープ独特の粗い苦味がエレガントに抑えられているように感じた。ジビエの串も火の通り方が良く、鹿肉の風味がよく引き出されていた。朝食の箱膳は、塗りではなく白木の指物で、美しくかつ機能的で感心させられる。

2019.7.18

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